本論文では、低エネルギーQCDのホログラフィックな記述について論ずる。ゲージ重力対応の指し示すところによると、強結合のゲージ理論は、それに対応する別視点の記述が存在し、すなわち高次元のある曲がった時空における古典重力あるいは古典弦理論と等価である。この考えをQCDに応用することは興味深い。ホログラフィックQCDはあるハドロンの有効理論を用いてQCDの閉じ込め相を調べる試みである。ここでその有効理論は、強結合のQCDカラー部分が高次元時空に置き換えられた結果、フレーバー対称性に関する高次元理論になっている。我々は、超弦理論からトップダウンに得られ、そしてホログラフィックQCDの最も成功している模型であるとして知られている酒井杉本模型に着目する。ここでは、まずその模型を概観する。例えば、ベクトルおよび軸性ベクトル中間子は5次元のゲージ場として統一される、また、バリオンはその模型のソリトンとして与えられ、ソリトンのモジュライによってバリオンの状態が指定される、などがわかる。それらの一方で、酒井杉本模型は質量ゼロのQCDに対応するものであるが、クォーク質量をこの模型に取り入れることも可能である。特に我々はストレンジクォークの質量まで含めた場合を考えることにする。我々はクォーク質量を含めたことによる3フレーバーバリオンの質量スペクトルの変化を、クォーク質量に関する展開の最初の次数で計算した。その結果は、質量の変化分はバリオンの動径方向の励起、スピン、および3フレーバーの状態によっていることが見て取れる。そのバリオンの質量変化を数値として評価した場合についても議論を行った。そこでは我々の理論計算の結果は実験値と比べたときに定性的な傾向が合っていることがわかった。