BESS-Polar実験は原始ブラックホールや超対称性粒子といった、初期宇宙における事象から生成される(一次起源)宇宙線反陽子を探究する為に、高統計かつ低エネルギー領域に高感度な観測を行っている。BESS-Polar測定器は南極上空での長期観測を実現する為に超伝導ソレノイドマグネットの長寿命化や太陽電池システムの構築を行い、また低エネルギー宇宙線の高感度な観測を行う為に測定器の物質量を極限にまで抑えている。そのなかで、BESS-Polar測定器から新たに搭載されたMiddle TOFにより、0.1GeVまでの極低エネルギー宇宙線反陽子の観測が可能となり、Middle TOFは一次起源宇宙線反陽子の探索に必要不可欠な役割を果たしている。
2004年に実施されたBESS-Polar I実験では、測定器内の厳しい空間的制約からMiddle TOFは片側読み出しであった。そのため、Middle TOFの粒子識別能力には限界があった。このBESS-Polar Iでの結果を踏まえ、私は両側読み出しのBESS-Polar II Middle TOFの開発を行った。両側読み出し実現の困難はマグネットボア内部の空間的制約から来ている。私はインストール手法を精査する事により、両側読み出しのMiddle TOFを実現させた。
BESS-Polar II実験はNASAとの国際協力のもと、2007年12月から2008年1月にかけて南極上空における長期観測を行った。新たに開発したBESS-Polar II測定器により20日間以上の観測を実現させた。BESS-Polar II測定器は一次起源宇宙線反陽子探索に最も重要な時期である太陽活動極小期において、BESS-Polar Iの約5倍の統計量である47億イベントを取得した。
BESS-Polar II Middle TOFはフライト中トラブルが起きる事なる動作した。BESS-Polar II Middle TOFは両側読み出しになった事により粒子識別性能向上を実現し、0.1GeVの極低エネルギー領域における宇宙線反陽子の高感度観測に重要な役割を果たした。