Interaction between Alternating Magnetic Fields and a Relativistic Collisionless Shock

永田 健太郎  (物理)

Abstract

我々の宇宙には「非熱的スペクトル」を示す現象がありふれている。これは無衝
突プラズマ中で粒子が盛んにエネルギーを得ている(加速されている)ことを示
しているが、メカニズムは明らかではない。特に相対論的高エネルギー天体(パ
ルサー星雲、活動銀河核(AGN)ジェット、ガンマ線バースト(GRB)な
ど)でよく見られる。またこれらの天体では磁場から粒子へのエネルギー変換
(磁気散逸)も問題となっているが、未解決である。
本論文ではこれら「粒子加速」と「磁気散逸」の問題を解決するために「衝撃
波」と「反平行磁場」に着目した。衝撃波は超音速の流れが阻害されれば生成さ
れ、反平行磁場は乱れた磁場構造があれば見られる。共にありふれた現象であ
る。そこで我々は数値シミュレーションを用いて、反平行磁場と相対論的無衝突
衝撃波の相互作用の研究を行った。シミュレーション方法は粒子加速や磁気散逸
を正しく扱うことのできるParticle-in-Cell(PIC)法を用いた。
相対論的衝撃波を扱う多次元PICシミュレーションでは、「Numerical
Cherenkov Radiation」と呼ばれる数値現象が問題となる。この問題は電磁場を
解く際に時間や空間の差分の影響で電磁波の位相速度が短波長領域で実際の電磁
波より遅くなるため、粒子が電磁波より速く運動することでチェレンコフ光が発
生するものとして理解されている。我々はこの問題の原因がこれまでの理解に加
え、電流計算の際に生じるエイリアスの影響によっても生じることを明らかにし
た。さらに過去に提示されたスペクトル法の一種とエイリアスの影響を効果的に
排除するフィルターを用いることで解決されることを示した。
次に1次元PICシミュレーションによって、反平行磁場と衝撃波の相互作用を
調べた。その結果、衝撃波面から放射されるprecursor waveが電流層内の粒子を
強く加速することがわかった。また電流層同士の間隔が衝撃波下流の典型的な
ジャイロ半径よりも小さい場合には、反平行磁場構造が衝撃波遷移層で消滅し、
強い磁気散逸が起こる。これは磁気散逸によって磁気中性面の幅が最低でもジャ
イロ半径程度まで拡大するためである。一方で電流層の幅が広いときに衝撃波下
流に大振幅の磁気音波が励起され、precursor wave によって加速された粒子が
さらに加速されることがわかった。
最後に1次元での結果を踏まえ、2次元シミュレーションを行った。電流層の間
隔がバルクのローレンツ因子と磁場によって定義されるジャイロ半径よりも小さ
い場合、一部の粒子は衝撃波面から上流へ逆流する。この逆流粒子と上流のプラ
ズマがWeibel不安定性を引き起こし、衝撃波下流系で磁場と電場を励起する。我
々はこの電場によって粒子が加速されることを発見した。特に電流層の間隔が
ジャイロ半径より小さく、かつ上流の平均磁場がゼロの場合、このWeibel不安定
が散逸を担って衝撃波が形成される。これは背景磁場なしの場合と同様で、1次
元シミュレーションでは衝撃波は形成されない。Weibel不安定性は1次元では実
現されない多次元効果である。
我々は以上のような反平行磁場と衝撃波による粒子加速と磁気散逸のメカニズム
を発見した。