Precise Laser Spectroscopy of Atoms in Superfluid Helium for Investigation of Nuclear Structure

古川 武  (物理)

Abstract

我々は、近年注目を集める不安定核の特異な核構造を探る上で有効な物理量で ある、核スピンと電磁気モーメント(核モーメント)を系統的に測定できる新 しい方法を提案した。それは、核反応にて生成した不安定核を超流動ヘリウム (He II)中へと導いてレーザー分光を行い、不安定核原子の準位構造(超微細 構造およびゼーマン副準位構造)から核のモーメントとスピンをそれぞれ決定 するというものである。具体的には、1)He II中に高速な不安定核ビームを打 ち込んで停止させ、2)停止した不安定核原子をその場でレーザー光ポンピン グ法にてスピン偏極させ、3)マイクロ波やラジオ波を照射して超微細構造準 位間もしくはゼーマン副準位間の共鳴を起こし、レーザー誘起蛍光強度の変化 から準位構造を調べる。本方法が実行可能となれば、生成量が10pps程度と少な く既存の方法では核のモーメントやスピンの測定が困難であった存在限界近く の不安定核に対しても測定が可能になると期待される。
そこで本方法の有用性を実証するために、安定同位体原子を用いた実験を行っ た。まずレーザー光ポンピング法によって90%以上の高い偏極度を133Cs原子に ついて達成し、またHe II中では偏極緩和時間が2秒以上と極めて長時間である ことも初めて明らかにした。これらの結果は、He IIが原子のスピンを操作して レーザー分光を行うのに有効な環境であることを示唆する。次に、ゼーマン準 位間、超微細構造準位間の共鳴を測定し、それぞれの準位構造から85,87Rb原子 について核スピンおよび核モーメントを導出した。核スピンの値は極めて高い 精度で既知の値と一致し、核モーメントの値も核構造の議論に充分な精度で既 知の値と一致を示した。このことは我々の測定法が充分に実用的であることを 示している。さらに、実証実験で得られたパラメータを元にシミュレーション を行い、10pps程度の生成量しかない不安定核に対しても測定が可能であること を示した。これらの結果から、今まで測定が困難だった不安定核のスピンと核 モーメントを測定出来る新たな測定法の開発に成功したと結論付けられる。