Fluctuation in Colloidal Crystal Studied by Optical Methods

山田 尚史  (物理)

Abstract

本論文では、ブラッグ回折光とコロイド結晶中に存在するの歪みとゆらぎの関係を調べる実験を行い、回折光パターンのゆらぎのメカニズムを明らかにした。また、歪みの少ない単結晶作成法を考案し、光学的測定とシミュレーションにより結晶の成長過程を観察し、従来の単結晶作成法との比較を行った。
 まず、単結晶にレーザー光を入射させた時のブラッグ回折パターンを詳細に調べた。回折光は線状のスペックルパターンであり、強い回折光と弱い回折光という2種類の成分から構成されることが分かった。強い回折光はコヒーレントな性質を持ち、照射位置に対して依存性を持つことが分かった。単結晶上で照射エリアをスキャンしたときの回折光のパターンを調べた結果、歪みのサイズはビームの光軸方向には40〜80μm、光軸に垂直な方向には60〜120μmであった。この結果から、結晶はモザイク構造を持ち、強い回折光パターンはそれぞれのブロックからの回折光の干渉に起因することが分かった。さらに、回折光パターンのシミュレーションを行うことにより、実験から得られたモザイク結晶のモデルの検証を行った。
 一方、フォトンコリレータの実験から、弱い回折光は時間的なゆらぎを持ち、その相関時間は1.2msであった。これはブラウン運動と同じオーダーである。しかし、相関時間の散乱ベクトル依存性はブラウン運動のものとは異なり、これはコロイド結晶中の粒子は協同的な運動を行っていることを示唆している。また、弱い回折光パターンから粒子の空間的ゆらぎの情報を得ることができた。粒子の配列にゆらぎが存在する場合の散乱光の理論を構築し、計算した結果、コロイド結晶中の協同的ゆらぎはブラッグピークの周辺に広がりをもった散乱パターンとして表れることが分かった。
 液相状態のコロイド分散液に対しても、その構造を調べるために光散乱の実験を行った。その結果、体積分率の高い状態において、イオン濃度の減少とともに液相状態のコロイド分散液の透過率が低下するという現象が見つかった。この結果は、液相の構造もイオン濃度によって変化することを示唆しており、これはイオン濃度の減少とともに分散液中の光の平均自由行程が増加することが原因と考えられる。
 また、歪みの少ないコロイド結晶を作製するために、重力と逆方向に上から成長させる方法を考案した。この方法は、塩イオンの濃度の傾きと粒子濃度の傾きが逆方向であり、成長端における沈降の影響を抑えることができる。作製された結晶の評価には上記のブラック回折パターン用いた。従来の下から結晶を成長させる方法では歪みが大きいのに対し、上からに成長させる方法では歪みが小さいことが分かった。さらに結晶成長のシミュレーションを行った結果、結晶化に関与する多くのパラメーターのうち、結晶の格子定数を支配するパラメーターは主に重力とイオン濃度であることが確認された。