The Gauge/gravity Correspondence via Melting Crystal

玉腰 武司

Abstract

超弦理論は重力子を含んだ量子論で、量子重力を記述する有力な候補です。超弦理論における開いた弦と閉じた弦の双対性は、低エネルギー極限で十分な超対称性を持てばゲージ理論と重力理論が互いに双対になりうる可能性を示唆します。超弦理論の示唆するゲージ理論と重力理論の対応関係の一つに、4次元超対称SU(N)ゲージ理論と局所SU(N)幾何の対応が挙げられます。局所SU(N)幾何は非コンパクトなトーリックCalabi-Yau多様体で、その時空の特異点構造がゲージ対称性の拡大に反映されます。この博士論文では、この対応関係を溶解する3次元結晶を記述する統計模型の観点から調べました。
近年、8個の超対称電荷をもつ4次元ゲージ理論の非摂動効果の理解に大きな進展がありました。始めにこれを振り返ります。特に、位相的弦理論の厳密な分配関数の表式から思いもよらぬ立体ヤング図形の統計模型との関係が指摘されました。
そこで立体ヤング図形の統計模型を導入します。立体ヤング図形を3次元結晶の溶解部分と見なすことで、この模型を結晶の溶解を記述する統計モデルに見立てることができます。この模型の分配関数をq-変形されたゲージ理論の観点から考察し、5次元超対称SU(N)ゲージ理論の厳密な分配関数を再現することを示しました。単位立方体から構成される立体ヤング図形は非可換時空におけるU(1)インスタントンの配位を表します。統計模型の基底状態はゲージ理論の摂動的真空を記述することがわかりました。
次にこの結果に基づいて、ゲージ理論を記述する統計模型と超弦理論を4次元にコンパクト化するCalabi-Yau多様体上の重力理論が等価である可能性を示すことができました。このことはゲージ/重力対応を理解する上で重要になると考えられます。
Bohr-Sommerfeld量子化により重力量子の泡に離散可されたトーリック多様体は、実3次元空間内の凸多面体内の格子点で記述されます。この重力量子の泡を立体ヤング図形に対応させることで、立体ヤング図形の統計模型は様々なトポロジーのトーリック多様体の幾何学的足し上げを含む重力理論と捉えることが可能です。統計模型の基底状態は古典的な時空に対応すると考えられます。そこで超弦理論の予想に基づき、局所SU(N)幾何の量子重力の泡を調べ、ゲージ理論の摂動的真空を記述する統計模型の基底状態と同一視できることを示しました。その局所SU(N)幾何の重力量子の数を数えると、5次元超対称SU(N)ゲージ理論の摂動項が再現されます。この結果はゲージ/重力対応の一つの検証と考えられます。