Study of Kaonic nuclei by the in-flight (K-, N) reactions

早川 知克

Abstract

中性子星コア中でのK中間子凝縮の存在可能性をめぐって、低エネルギー
領域でのK中間子原子核間相互作用についての研究が盛んに行われている。
実験的には、これまでK中間子原子X線の測定を中心に行われてきたが、
近年では静止(K-,N)反応や飛行(K-,N)反応等を使って、原子核内部に
K中間子を導入した系の状態を観測する実験も行われている。
阪大グループでは、比較的重い炭素や酸素原子核に対して飛行(K-,N)反応
(Nは陽子もしくは中性子)を用いてK中間子原子核系をつくり、それぞれの
反応のミッシングマススペクトルから原子核中でのK中間子の状態を直接
観測する実験を、米国ブルックヘブン国立研究所(パラサイト BNL-AGS E930)
や高エネルギー加速器研究機構(KEK-PS E548)で行ってきた。

本講演では KEK-PS E548 実験の概要と解析結果などについて紹介する。
KEK-PS E548 実験から得られたK中間子原子核の励起エネルギースペクトルは、
K中間子の深い束縛領域に分解能等では説明できないテールや構造を持ち、
これは原子核中にK中間子が深く束縛した状態に対応すると考えられる。
またスペクトルからK中間子原子核光学ポテンシャルの情報を引き出すため、
歪曲波インパルス近似(DWIA)法による状態計算との比較を行った結果、
(a) ポテンシャルの深さ(実部)は -160 ~ -190MeVにも達する一方で、
(b) 虚部は -40 ~ -70MeVと比較的小さな値を持つなど、K中間子原子核間の
強い引力相互作用の存在を示しており、また (c) (K-,p) 反応と (K-,n) 反応の
スペクトルの違いから、ポテンシャルの深さがそれぞれのK中間子原子核中の
T=0 KN 対の数にほぼ対応してしており、T=0 のK中間子核子間相互作用が
T=1 のそれに比べて強く引力的であるという性質に対応している可能性を
示している事などが明らかになった。